溺甘副社長にひとり占めされてます。
「こんにちは。また会えて、嬉しいです」
目の前には、喫茶店の常連客であり、白濱副社長の知り合いだったあの男性がいた。
顔見知りではあるかもしれないけれど、嬉しいなんて言ってもらえるような親しい間柄ではないはずだ。
彼の言葉に疑問を抱きながらも、私はおずおずと頭を下げ返した。
「お、お久しぶりです……あの……」
なかなか離してくれない手をじっと見つめていると、彼が私の隣にいる藤田さんへと目配せした。
「あっ、はい。では……私は先に受付へ行ってますね」
「藤田さんっ!」
待って行かないでと続けたかったけれど、それよりも先に、彼女は機敏に私の傍から離れていった。
ふたりっきりになると、もう一歩彼が距離を詰めてくる。
そして声を潜めてこう言った。
「君と、少し話がしたいのですが、今夜、食事でもどうですか?」
思いもよらぬ申し出に、ほんの数秒、思考が停止する。
「仕事は何時に終わりますか? そのくらいに迎えに来ますので」
「……ちょ、ちょっと待ってください。私とですか?」
「はい。あなたとふたりで、です。確かお名前は、美麗さんでしたよね」
“なぜ私?”という疑問が、頭の中をぐるぐる回りだす。
断りの言葉が、なかなか浮かんでこない。