お願い!嫌にならないで



「あれ? 辻さん、何を想像しちゃってるんすか?」

「ちょっ! 何にも想像してませんけど! 本当に止めてください、そういうの!」

「純情振っちゃって。そろそろ素直になったら、どうなんすか」

「だから──」



俺が言いかけた瞬間、テーブルに物体が、がさつに置かれた音がした。

おそらく、缶の音だ。

山本くんと2人でその方向を見ると、少々苛立ち気味の中谷さんがこちらを見ている。

2人して、身が竦む。



「「すみません……」」

「とりあえず、水野さんをここに泊めてもらうことには賛成です。結構、深く眠っちゃってますし、帰れる状態じゃありませんから。辻さん、良いですか?」

「あ、はい。俺は構いませんけど」

「今日はお願いばっかりで、迷惑かけます」

「大丈夫です。迷惑なんて、全く思ってませんから。楽しかったです」

「それなら、良かったです。でも……」



中谷さんがニッコリと笑いかけてくれ、この場の雰囲気がほっこりしたのも束の間。

俺の鼻の頭を目掛けて、人差し指を突き出す。



「でも、だからと言って、浮かれないでくださいね」

「へ……」

「水野さんが嫌がるようなことしたら、私、許しませんから」



念入りに釘を刺された。

そんなことは言われずとも、しようとは思わない。

そもそも水野さんの嫌われるなんて、そんな恐ろしいこと想像したくもない。



「分かってます」



しっかりとした口調で、強い意思を示す。

そんな俺と台詞に、中谷さんはフッと笑った。



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