お願い!嫌にならないで



「冗談の通じない人ですね」

「今の冗談だったんですか? そっちこそ、分かりにくい人だなぁ」



俺の悪態に中谷さんは、ムッとする。

しかし、直ぐにいつもの表情へと戻り、空になった惣菜のトレーを片付け始めた。

それに続いて、俺と山本くんも空き缶や皿を集める。

片付けをしつつ、何気無く中谷さんを見る。

すると、いつの間にか、中谷さんの口元は分からない程度だが、僅かに弧を描いている。



「あき、ご機嫌だな」

「そりゃ、楽しかったもん。当たり前でしょ」



タイミングを図ったかのように、山本くんが話しかける。

表情は変えないものの、声色は嬉しそうだ。

思えば、中谷さんはいつだって水野さんだけでなく、俺のことまでも気にしてくれていた。

『お願いしますよ。さっきの辻さんの表情を見たら、よくよく分かりましたから』

『早く水野さんのこと、安心させてあげてください』

『きっと見えてますよ、辻さんは』

──気がかなり強いけど、人のことも喜べる何だかんだで良い子なんだよなぁ。

決して、口にはせず、心の中だけで呟く。

おそらく、こんなことを口に出したら、また山本くんがおっかなくなるだろうから。

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