お願い!嫌にならないで



その後、水野さんを風呂場へ案内し、リビングのカーペットの上に座り込む。

その時に我ながら驚いたのは、自分が無意識の内に緊張していたこと。

自分の部屋に今まで憧れていた人が居て、それも二人きりというシチュエーションとなれば、そりゃ、免疫が無いのだから、己が狼狽えることなんて当然のことだろう。

1人になった途端に、心臓がバクバク言っている。

よっぽど堪えていたのだか知らないが、今、反動で少し苦しいくらいだ。

この後、俺はどうしたらいいのだろう。

平常心を保って居られるだろうか。

『2人っきりの時間、楽しんだら良いじゃないっすか』

不意に、山本くんの台詞が浮かぶ。



「くっそ、山本くんのせいで…………」



余計な妄想が頭を過る。

それを必死に振り払う。

駄目だ、全く落ち着けない。

キッチンへ向かい、ミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出して、ガラスのコップに注ぎ、勢いよく喉に流し込む。

息を吐くと、少し冷静になれた気がした。

冷静になった後も、水野さんのことを考える。

今まで、付き合う前も含めて、本当にいろんな水野さんを見ることが出来た。

出会った直ぐは、物静かそうな女性だと思っていた。

しかし、実際はそうではなかった。

たくさん食べるのも、お酒を飲むのも大好きで、ちょっとしたことでも嬉しそうに笑ってくれる。

柔らかい雰囲気でみんなを包み込んでくれるし、厳しく叱ることだってある。

さらには、意外にも強かで嫌なことは嫌だと、ちゃんと主張する。

それは、自らが恐れていた相手にも。

でも……。

本当は、弱いところもあって。

最近になって、徐々にそこを俺に見せてくれるようになった。
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