お願い!嫌にならないで



──こうやって思い返すと、やっぱり水野さんのこと……。

思いを巡らせていると、リビングの扉が開く音がした。

はっとして、水野さんの分のミネラルウォーターをガラスのコップに注いで、そちらへ向かう。



「あれ……? 辻さん?」



控えめな動きでキョロキョロしながら、俺を探す彼女の姿に胸がキュンと鳴る。

しかも、髪を下ろしていて、いつもと雰囲気がまた違う。



「……っ、めちゃくちゃ抱き締めたい……」



俺の声に気が付いた水野さんが、こちらを見て、一瞬止まった。

まずい、聞かれたかもしれない。

つい、口から出てしまった。

しかし、不意に飛び出してしまった俺の言葉の内容までは、水野さんに届いていなかったらしく、柔らかい表情になる。



「良かった、いた」

「もちろん居ますよ。はい、水です。飲んでください」



テーブルに2人分の水を置いて、座るよう促す。



「ありがとうございます」

「いーえ。それより、髪まだ濡れてるじゃないですか。ドライヤー使って良いんですよ」

「良いですか? どこに有るのか分からなくて……」

「ああ。俺、持ってきます」

「え。私がそっちに行きます」

「良いから。待っててください」



立ち上がろうとする水野さんを止めて、風呂場へ取りに行く。

そして、戻るとコンセントを差し、そこに胡座をかいて手招きした。



「へ……」

「俺、乾かしますから、こっち来てください」

「い、いいです。じぶっ、自分で出来ます」

「ほらほら、遠慮しないで。気にせず、がっつり甘えてください」



そうじゃないと、男の俺から行くなんて、何だか恥ずかしいじゃないか。

男尊女卑のつもりは、一切無いけれど。
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