お願い!嫌にならないで
頑なに動こうとしない水野さんに、手招きをして、ドライヤーを構える。
しばらく熱い視線を送り、一切ぶれる様子のない俺に呆れたのか、渋々とやって来て、俺の前にて足を崩すと横座りをした。
「お願いします……」
「失礼します」
恐る恐る髪に触れると柔らかくて、少しクセのあるネコ毛が気持ち良い。
先ほどまで、苦しいくらいの動悸に襲われていたくせに、今は何故かしら落ち着いている。
傍に水野さんが居ると、いつも空気が和やかだ。
ドライヤーの風に靡く髪の隙間から覗く耳が、赤く染まっていた。
そして、はじめのうちは強張っていた彼女の肩も、次第に慣れてきた。
気を許してくれていることが、何より嬉しい。
ウトウトし始めた後頭部を見つめている、それだけで愛しく思える。
眠気に誘われているところ可哀想だと思ったが、胸が疼いて仕方がない。
そして、想いは止められず、後ろから抱き締めた。
「ちょっ、 え、つ、辻さ……」
「もう、ちゃんと乾きましたよ」
後ろから抱き付いたから、どうしても顔が近くなる。
水野さんの体は、一度びくっと震えた。
シャンプーの良い香りもするし。
同じシャンプーを使っているはずなのに、こうも違うとは。
甘い匂いに、クラッとくる。
もっと抱き寄せると、体をまだ強張らせているはずの水野さんが、俺の腕に手を添えて呟いた。
「あったかい……」
「ん? 寒かったですか?」
「ううん。それは大丈夫です。なんと言うか……」
「なんと言うか?」
「辻さんの体温が、熱いくらいで……」
辿々しく、言葉にしてくれる。
精一杯な姿に、胸を鷲掴れた。
もっと抱き寄せて、頬を寄せる。
「そりゃ、当然です。俺がどれだけ貴女に夢中か、知ってますか」
水野さんは、俺の腕の中で固まってしまう。
「ほんと、好きです」
「つ、つじさん? もしかして、まだ酔ってます?」
「酔ってません……正気ですよ」
「正気で、そんな大胆なこと……」
声を震わせているところに邪魔をするつもりで、水野さんをこちらへ向かせ、触れるだけのキスをした。