あのとき離した手を、また繋いで。


私の後ろで大きな声を出したのは、水無瀬くんだった。
一緒に来たのか、となりには夏希がいた。
黒板の文字に眉間にシワを寄せたが、無言だった。


そしておもむろに黒板へ近づくと、黒板消しを手にし、文字たちを消していった。
それに倣うように、清水さんも駆け寄って黒板を元の色に戻した。


私と水無瀬くんはその場に立ち尽くして、それを眺めていた。
くちびるを強く噛んだら、血の味がした。



「行こ」



夏希が私の手を引く。チャイムが鳴った。朝のホームルームが始まるというのに、私は夏希と共に教室を出た。


ずんずん進んでいく夏希の歩幅に必死についていく。


……夏希、怒ってるの?


屋上に続く階段を上がって、扉の前で立ち止まった夏希。
朝なのに、窓が扉の磨りガラスしかなく、照明もないからか、すこし薄暗い。



「夏希?」



名前を呼ぶと、勢いよく抱きしめられる。
息が苦しくなるぐらい強く、強く。



「ごめん、モナ、モナのことは、信じてる」

「うん」

「でも、俺、正直ちょっと嫉妬した」

「えっ……んんっ」



かぶりつくようにキスをされる。求められているのがわかる。
柔らかい熱をもったそれに、私の頭の中がとろけるように真っ白になっていく。


すべてがどうでもよくなるような甘い、甘いキス。酔いしれる。


唇が離れる。おでこ同士をくっつけたまま、夏希が「ごめん」と言った。


夏希に謝罪されることなんてなにもない。



「モナのこと好きすぎる」

「ん、私もだよ……」

「おかしくなりそう」



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