あのとき離した手を、また繋いで。


たぶんあの黒板の落書きも、彼女だと思う。


あの日、休み時間に彼女と廊下ですれ違ったとき『早く別れてよ』と言われた。


とても、怖かった。


夏希は「誰があんなこと……」と、真剣な眼差しで考察していたけれど、犯人はまるでわかっていないようだった。


私と水無瀬くんはその夏希の様子を見て黙ったままでいた。勘のいい清水さんも、誰の仕業なのかは知っているといった感じだった。


純粋な夏希だけが黒幕を知らないでいた。


そして、あっという間に楽しかった夏休みが終わり、2学期が始まった。


朝目覚めてすぐ、これから学校に行かなきゃいけないのかと思うとすごく憂鬱な気分になった。


だって、次はどんなことされるのかって考えるだけでおぞましい。


気分はさがり、お腹も痛くなって、最悪だった。



「あ、おはよう!モナ!」

「おはよう」



校門の前で、ばったり夏希と会った。
2学期初日にこんな偶然が起こるなんて、最悪だったテンションが上がる。


……と、思ったところだった。



「おはよう、橘さんっ」



ひょっこり、夏希の背後から顔を覗かせた黒木さんを見てギョッとする。夏希にむけていた笑顔が一瞬で固まる。


一緒に、ここまで来たの、かな……。


ジェットコースターみたく上昇していた気分が急降下した。



「……おはよう、黒木さん」



無理やり、ひきつる顔を笑わせた。
近づくと流れで夏希を真ん中に挟んで3人で並ぶ形になった。


あまりにおかしな状況に、自嘲することさえできない。こんなの、とても笑えない。



「そういえば夏希、昨日私が作ったオムライス美味しかったー?」



演出された垢抜けた声で黒木さんが私の知らない話題を振った。


私が、作った……?



「美味かったよ。昨日も言ったじゃん」

「そうだっけー?何回も言ってくれないと伝わんないよー」

「いつも感謝してるって」

「そうそう、そう言ってくれなきゃ」



蚊帳の外、みたく、ふたりだけで広がっていく会話。


< 67 / 123 >

この作品をシェア

pagetop