あのとき離した手を、また繋いで。
いつも、ね……。
寂しさが黒くなって心のなかに染み込んで、また、侵食していく、そんな感覚がする。
私の知らないところで、私に意地悪をする女の子が夏希と繋がっている。
それがたまらなく悔しい気持ちになる。
黒木さんの手料理を夏希は"いつも"食べてるんだ。
私なんてまだ一度も夏希に手料理を食べさせたことなんてないのに。
幼なじみか。いいな。羨ましい。
彼女がいたって、恋人がいたって、そんなの関係なしに近づける。まっとうな理由になるのだ。
「モナの手料理も食べてみたいな」
不意に横顔ばかりを見せていた夏希が私のほうに振り向いた。
「いいじゃん黒木さんが作ってくれるなら」
わりと可愛くない口調で、可愛くないことを言ってしまった。自覚はあった。
夏希が口をつぐむ。彼の後ろにいる黒木さんは上機嫌で笑っていた。
負けている。
なにに、とか、そんなの関係なく、そう思わされた。
黒木さんに負けている。それがたまらなく歯がゆい。
私は、彼女なのに。私は、夏希の恋人なのに。
どうして単なる幼なじみで、私より早く出会っただけの女の子に負けなきゃいけないの……。
幼なじみよりも恋人のほうが、夏希に近い存在に違いないというのに。
「……っ……」
自分のほうが黒木さんより上だと言い聞かせている自分に気づいて自己嫌悪に陥る。
……いままで私の噂を好き勝手話している人たちのことを、私を自分より下に見て馬鹿にしている、心の小さい人たちって思っていたのに、変わんないじゃん、私だって。
こんな汚い考えの私がいるなんて、いままで知らなかった。