あのとき離した手を、また繋いで。


そう思ったら、寂しさに拍車がかかった。


そばにいるのに。触れられる距離にいるのに。
どうしてこんなにも胸が張り裂けそうになるのだろう。


恋って、こういうものなのかな。
綺麗な感情だけじゃ、ないのかな。


幸せだけじゃ、終わらないのかな。


初めて好きだと言われたとき、いま思えば、この世の幸せを全部私が受け取ってしまったんじゃないかと錯覚したほどだった。


海で初めてキスをしたときは、時間が止まればいいって本気で思った。


初めて電話で寝落ちしたときは、こんな有意義な時間が存在していることに気づいたことを早く君に会って言いたいと思った。


心の底から湧き上がる愛しい想いに、身体の器が追いつかないと、常々考えていた。


いまもそう。いまだってそう。


汚いこの憎たらしい想いもすべて、君が好きだという証。


こんな私を知っても、私の心をもし、夏希に覗かれても、好きなままでいてくれるかな。



「じゃあね」



となりのクラスの前で、黒木さんと別れた。あれから私は一言も口を開いていなかった。
無言のまま、夏希と教室に向かう。


心のなかはモヤモヤしたままだ。



「モナ、怒ってる?」

「べつに、怒ってないよ」



席について、夏希が私の顔色をうかがうように聞いてきた。なぜだかそれだけのことにイラッとしてしまった。


どうやら心のなかが本当に狭くなってしまったみたいに、小さなことが引っかかる。そのおおもとに、黒木さんがいる。それがわかる。


< 69 / 123 >

この作品をシェア

pagetop