あのとき離した手を、また繋いで。



とことん自分のことが嫌いになりそう。


この世界の綺麗なものすべてが比喩になりそうな顔で笑う夏希に『好きだ』と言われたとき、嫌われ者だった自分のことがすこしだけ好きになれた。


その、はずだった。なのになんでだろうね?



「……っ……」



涙は止まらず、心が荒れて、うまく息が吸えない。荒々しく鈍っていく呼吸に、意識がふわっと飛びそうになる。視界がぼやけているから余計にだ。


どうしてこんなに辛いんだろう。
ただ、夏希が好きなだけなのに。
どうしてこんなにも苦しまなきゃいけないの。


ただ、君への想いを純粋に、噛み締めて笑っていたいだけなのに。


屋上に繋がっている扉の前まで駆け抜けた。


立ち止まると肩で息をして壁に寄りかかる。
そしてそのまま壁を滑るように座り込んだ。
膝を抱えて顔を埋める。


足音がする。近づいてくる。



「モナ……」



声が鼓膜を揺らして夏希が追いかけてきてくれたことに気づく。
切なさを含む呼びかけに応じることはしなかった。
暗闇のなかでただ泣いていた。


かってに怒って、かってに泣いて。
こんなの、ただのかまってちゃんだ。


困らせたいわけじゃないとか、そんなことは言えない。
夏希の心と頭が私で埋め尽くされればいいのにって、そんな幼稚なことばかりを考えてしまう。


私で満たされて、私でいっぱいになって。
そしたら他のことなんて気にならないでしょう?


他の子のことなんて考えないで。
そんな暇ないぐらいに私のことを愛してよ。


心のなかでだだ漏れしている本音たちは口からは出ない。



「ごめん、モナ。モナのこと泣かせたいわけじゃないんだ」

「……っ……」



背中に置かれた手から、ぬくもりがじんわり伝わってくる。


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