あのとき離した手を、また繋いで。
抱き寄せられて、制服からする夏希の匂いに安心する。
泣く私に男らしい包容力で、優しく諭すように「大丈夫」と繰り返す夏希が彼氏で本当によかった。
こんな情緒不安定な彼女、絶対に面倒なはずなのに。
「俺はモナが好きだから」
「ん……」
「大丈夫。ずっとそばにいる」
耳元で愛を囁く君が、彼氏で本当によかった。
それから夏希は、泣き止むまでそばにいてくれた。
***
2学期になって2ヶ月が経った。
暑かった季節が終わり、衣替えをして、寒い季節になったのだが、なぜだかわからないけれど、彼女からの嫌がらせが減った。
そのことを疑問に思っていたら、黒木さんがあまり学校に来ていないことを知った。
あれから夏希との会話のなかで彼女の名前が出ることはなかった。お互いのなかで暗黙の了解だった。
じゃあなんで私が知ることができたのか。
それは単なる偶然だった。
あんなに頻発していた嫌がらせが急にやむものだから不自然に思っていたある日の昼休み。
お手洗いで用を済ませ、教室に戻ろうと廊下を歩いていたときだった。
「黒木さんまた休みか」
「なんか病気らしいよ」
「え?まじ?」
「うん、噂じゃ長生きしないらしいね」
「それまじだったら可哀想……」
偶然耳にした、となりのクラスの女子たちの会話。噂話。
聞き耳をたてるつもりは全然なかったのだけど、彼女の名前に反応してしまって立ち止まってしまった。
話していた女の子たちと目があって、止めてしまった歩みを進めた。
……黒木さんって、病気なの?
また胸のあたりがモヤモヤしてスッキリしなかった。
ようやく嫌がらせがなくなってきて、よかったと思っていたところなのに。