あのとき離した手を、また繋いで。


意地悪してきた女の子のことで私が気に病む必要はないのだろうけど……。


事実かどうかを知るすべは私にはない。
夏希に聞くことはできないし。



「あ」



不意に教室から出てきた水無瀬くんを見て声を出した。そうだ、水無瀬くんならなにか知っているかもしれない。


水無瀬くんが私に気づいて首をかしげた。



「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」

「ん、なに?」

「黒木さんのことなんだけど……」



彼の顔つきが真剣になる。
私も、心臓が嫌な風に動きが大きくなっていた。



「病気、なの?」



単刀直入に言う。水無瀬くんの目を真っ直ぐに見た。水無瀬くんはすこしだけ目をそらして「俺も詳しくは知らないんだけど」と、前置きをして話してくれた。



「中学のとき体育をずっと見学してたし、ちょくちょく学校休むからそうかなぁぐらいの認識なんだけど……」

「さっきとなりのクラスの子たちの会話を聞いちゃってさ」

「前からあったよ、その噂」

「知らなかった」



自分の噂が大きすぎて、他のことを聞き逃していたのかもしれない。それに、私には繋がりがなかったから情報はよほど入ってこない。


でも、だからって、私にできることはない。
友だちなわけじゃない。
ただ、恋人の幼なじみなだけ。


私のことを嫌っている女の子。
心ない意地悪をされた事実は変わらない。
相変わらず心のモヤモヤは晴れなかった。



***



寒さに磨きがかかった11月中旬。
次の家庭科の授業のために移動していたとき、筆箱を机の上に置いてきてしまったことに気がついた。



「ごめん、先に行ってて」



一緒に向かっていた夏希と水無瀬くんと清水さんに声をかけて、教室に戻る。


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