あのとき離した手を、また繋いで。
筆箱を手にすると、来た道を戻る。
階段をおりて、家庭科室に向かおうとしていたそのときだった。
ーードンッ。
背中を誰かに押されて、体重が意図せずに前方にいく。体制を崩してそのまま勢いよく階段を転げ落ちた。
「きゃあ……っ」
全身を打ちつけて、ひどく痛む。
なにが自分の身に起きたのか理解するのがやっとで、頭がよく回らない。
ズキズキと足や腕がうずいて顔をしかめる。
かすむ視界のなかで、階段の上の方を見ると女の子の姿が見えた。
あれは……黒木、さん……?
逃げていくその人影。
そこで力つきたように、意識を手放した。
次に目覚めたとき、私は保健室にいた。
「……っ……」
目を開けると真っ白な天井と、私の顔を心配そうに見つめる顔が見えた。
「モナ!大丈夫か!?」
「なつき……?」
「よかった……!先生呼んでくる……!」
その場を離れようとした夏希の手を、とっさに掴もうとして触れて、でも力が足りなくて離れる。
でもそのことに気づいた夏希が立ち止まって振り返ってくれた。
「モナ……?」
涙が自然と出てきた。夏希がその涙を指先で拭う。そして抱き寄せてくれた。しがみついて、夏希のぬくもりにすがる。
「どうして泣かせちゃうんだろうな」
「ごめん、ちがうの……っ」
私も、困らせたいわけじゃないんだよ。
「ごめんね、すぐ泣きやむから……っ」
夏希とは笑いあっていたいんだよ。
泣き顔なんかじゃなくて、笑顔でいたい。
なのに、それなのに……どうしてこんなにも難しいの。