あのとき離した手を、また繋いで。



筆箱を手にすると、来た道を戻る。
階段をおりて、家庭科室に向かおうとしていたそのときだった。


ーードンッ。


背中を誰かに押されて、体重が意図せずに前方にいく。体制を崩してそのまま勢いよく階段を転げ落ちた。



「きゃあ……っ」



全身を打ちつけて、ひどく痛む。
なにが自分の身に起きたのか理解するのがやっとで、頭がよく回らない。
ズキズキと足や腕がうずいて顔をしかめる。


かすむ視界のなかで、階段の上の方を見ると女の子の姿が見えた。


あれは……黒木、さん……?


逃げていくその人影。
そこで力つきたように、意識を手放した。


次に目覚めたとき、私は保健室にいた。



「……っ……」



目を開けると真っ白な天井と、私の顔を心配そうに見つめる顔が見えた。



「モナ!大丈夫か!?」

「なつき……?」

「よかった……!先生呼んでくる……!」



その場を離れようとした夏希の手を、とっさに掴もうとして触れて、でも力が足りなくて離れる。


でもそのことに気づいた夏希が立ち止まって振り返ってくれた。



「モナ……?」



涙が自然と出てきた。夏希がその涙を指先で拭う。そして抱き寄せてくれた。しがみついて、夏希のぬくもりにすがる。



「どうして泣かせちゃうんだろうな」

「ごめん、ちがうの……っ」



私も、困らせたいわけじゃないんだよ。



「ごめんね、すぐ泣きやむから……っ」



夏希とは笑いあっていたいんだよ。
泣き顔なんかじゃなくて、笑顔でいたい。


なのに、それなのに……どうしてこんなにも難しいの。


< 74 / 123 >

この作品をシェア

pagetop