あのとき離した手を、また繋いで。


目を丸くして「そんなことないよ」と言うと「また無理して笑ってる」とすこし怒られる。



「夏希との恋は、幸せじゃない?」



1秒ぐらい間を空けて、「……そんなことないよ」と言うことができた。
即答できなかった自分がとても嫌だ。なんで、どうしてだ。


あのときはたしかに、世界でいちばん、幸せ者だと思ったのに。



「無理して続ける恋は苦しいよ、きっと」



はっとするような言葉。清水さんの顔が切なく歪む。

その憂いを含む瞳で、なにを見ているのだろう?



「清水さんも辛い恋をしてるの?」

「まあね……。ずっと片想いしてるの」



視線が下に向く。
清水さんの好きなひとって……水無瀬くん、だよね?



「好きなひとって誰なの?」

「誰だと思う?」



質問を返される。声をひそめて「水無瀬くん?」と言うと「正解」と彼女がお茶目に笑ってみせた。


両想いだよって教えてあげたいけれど、それはなんとなく違うような気がする。



「ずっと好きでいるのは辛いんだよね」

「うん」

「でも"ああ、好きだな"って思う瞬間がくると、その辛さが吹き飛んじゃう。不思議」



すごくわかる。


いくら黒木さんから嫌がらせされたって、それで夏希のこと好きでいることが辛いって気持ちが揺らぎそうになったって、いつだって夏希は私に"君が好きなこと"を実感させる。


どんな困難なことがあっても、きっと私から君への好きって想いは消えないよ。


ああ、好きだなって、思う瞬間が息継ぐ暇もなくやってくるから。


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