愛を乞う
雪の思い

藤城様が女の方を連れてきた。
とても、綺麗な方。ふわりと香水が香る。
この方を見る藤城様の目が優しい。
親しそうにお部屋に連れていく。
私を一瞥しながら。

(ああ、そうか、藤城様にはそんな方がいらっしゃったのか、知らなかった。)
泣きそうになる。
でも、泣いてはいけない。
私の心を知られてはいけない。
手をギュッと握りしめ、堪えて見送る。
布団の中でたくさん泣いた。
奈緒はここには来ないし、誰の目もはばかることなく泣いた。
(私に惚れたと言って抱きしめる、キスする。でも、あなたには好きな人がいたんですね。暇つぶしには良かったでしょう。恋に不慣れな私を翻弄して楽しかったのですか?)

ここにはいられない。
ここにいると藤城様と彼女を否応でも見なきゃいけない。
そんなの耐えられない。

朝、藤城様のお顔を見ることができなかった。顔を見ると泣きそうだったから。
買い物に行くと言って、自分の鞄の中に必要なものを入れ、出かける。
護衛の方にトイレに行くと言って、そっと裏からお店を出た。
その後、家政婦の会社に行き、藤城様との契約を解除してほしいと頼み、少しお休みをとることにした。
次に行くには心の整理が必要だったから。
さて、どこに行こうか。
まず、アパートだな。

アパートに行くと妙に懐かしかった。
余計に泣けた。辛くてアパートにはいられない。
トボトボと歩いて、大好きなアイスを買って公園で食べる。
大好きだったアイスだけど、美味しくない。
味がしない。
ボーっとしてると夕暮れ。
いつの間にか日が暮れる。
「お!お姉ちゃん。1人?僕達と遊ばない?」
と絡まれる。
「ほっといて下さい!」
とその場を去ろうとするが、腕を掴まれる。
「そりゃないだろ。こっち来いよ。」
と物陰に連れ込まれそうになる。
「やっ!離して!」
叫ぶ。
「うるせえ!黙ってろ!」と口を手で塞がれる。
目から涙が出る。怖いのと、こんなことなら、藤城様に抱いてもられば良かったと思いながら。

突然、私の口を塞いでいた手がなくなる。
見るとその手を後ろの人に捻り上げられていた。
藤城様…。
藤城様は凄みのある顔で男達を睨みながら、
「こいつに触ったのか?腕を折られるくらい覚悟してるだろうな!」
と殺気立っていた。
「なんにもしてません!ひぃ!」
と男達は逃げ出した。

「帰るぞ!」
私を力強く抱きしめ、藤城様は言った。
「やっ!帰らない。もう、家政婦は辞めたんです!」
「俺は認めてない!」
と軽々と持ち上げられ、車に押し込まれる。

藤城様のベッドに放り投げられ
「あの!さっきも言いましたけど!家政婦は辞めたんです!だから、他の人を探して下さい。」
「だから、俺は認めてないって言っただろう! 家政婦なんか、どうでもいい!お前!
俺のこと、どう思ってる!」
突如聞かれ、ビクっとする。
「えっ!どうって…。」
沈黙。
「じゃあ、何で突然やめる?護衛を巻いてまで。」
またしても沈黙。答えられるわけがない。
答えると私の思いは笑われる。
(本気でお前に惚れたと思ったのか!そんな訳ないだろう!)
と笑われるに決まってる。
はぁ。と藤城様がため息をつく。
「お前は俺が好きなんだろう?違うか?」
「昨夜、女を連れて帰ったから、身を引くつもりだったんだろう?」
はっと顔を上げる。
「なんで…。」
「知ってるさ。奈緒に聞いた。お前の恋愛に対する自分の心と裏腹な行動をな。」
「だって!私がいくら藤城様を好きでも、藤城様には他に好きな方がいて、しかも、あんなに綺麗な方。そばにいるのが辛くて…。」
言ってる途中で口を塞がれる。
口はすぐに離れて
「昨夜のは失敗だった。あれはお前に俺を好きだと言わせるために女を連れ込んだだけだ。部屋に入ったあと、すぐに裏から帰したよ。朝、いなかっただろう?」
「な、んで、女の人を連れ込むと私がす、好きだと言うんですか?」
「お前が嫉妬して、縋り付いてくると思ったんだ。私のことが好きだと言ったのに!あんな女連れてきて!ってな。
でも、違った。上を行ってた。
女は嫉妬すると男にそれを向けるもんだと思っていたが、お前は違った。お前はそれを自分でなんとか処理しようとして、離れるんだろう?相手にぶつけることなく。」
「だって、私に心がないなら、相手を責めても仕方ないじゃない。自分で諦めるしかないもの。」
「さっき、俺を好きだと言ったか?」
「えっ!」
「いくら私が藤城様を好きでも…だったか?」
かぁっと顔が火照る。
「しっかり俺を見て言え。」
間近に藤城様の目がある。目線を合わせられなくて、私の目は左右にキョロキョロ。
「言え!」藤城様は懇願するような表現。
目を見られないから、顔が見えないように藤城様の胸に抱きついて
「す、好きです…。」
と小さな声で言ったが、藤城様には聞こえたらしい。
「やっと言ったな。俺も愛してる。今日は覚悟しろよ?泣いても喚いてもやめてやらないからな。せいぜい意識飛ばさないように頑張れよ?」と獰猛な顔で言った。
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