溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
「行かないでくれ」

「どこにも行きません。隣の部屋でお待ちしております。ですから、着替えてください」


彼が不安を抱えているのは見ていればわかる。
そして、その苦しい胸の内を誰かと共有したいことも。

その“誰か”が私でいいのかわからない。
だけど、心配でそばを離れられない。


「わかった」


八坂さんはようやく納得して、手を離してくれた。


それからリビングルームに戻り、割れたグラスを片付け始める。


「絨毯、敷きなおしかな……」


床のシミは広範囲にわたっている。
ちょっと掃除したくらいでは取れそうにない。

とりあえず、グラスとボトルを片付けると、八坂さんが寝室から出てきた。


「本当にいた」

「約束しましたから」


そりゃあ、押し倒されて、身の危険を感じなかったわけじゃない。
でも、彼はそれ以上なにもしなかったし、そんな気もないように感じる。


「嘘をつくヤツなんていくらでもいるのに」


鼻で笑う彼は、嘘をつかれてきたのだろうか。
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