溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
一度はあきらめた夢。
昔ほどうまくは弾けないけれど、やっぱりピアノを弾いている間は、心が和む。

しばらく必死に取り組んでいると、以前の感覚が戻ってきた。


ピアノ魅力はなんといってもその表現力だと思う。

すべての楽器をカバーするほどの音域があり、主旋律も伴奏も、十本の指で奏でることができる。
そして指先のタッチひとつで音の強弱をつけるのはもちろん、感情までが音になる。

鍵盤に沈む指の感覚が心地よすぎて没頭していると、練習時間があっという間に終わってしまう。


「西條さんに教えることはないわ」


ピアノの先生はそう笑ったけれど、まだまだ昔のようにはいかなかった。


その日、家に帰ったあとリビングのソファに座ったままウトウトしてしまっていた。


「澪?」

「ごめんなさい、私……寝てしまって」


大成さんに呼びかけられて気がついた私は、慌てて立ち上がった。
時計を確認すると、二十三時を指そうとしている。


「いや、いいんだ。先に寝てろって言ったじゃないか」
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