溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
何曲も何曲も鍵盤を叩いたのに、一曲もまともに弾けない。
ミスタッチが続出して音の強弱なんてあったもんじゃない。

ただ、戸惑いと怒りを鍵盤にぶつけ続けていると、指が真っ赤になっているのに気づき、我に返った。
もう帰ってきてから三時間以上経っていた。


「ダメだ……」


大成さんが私のために用意してくれたこのビアノをそんなふうに奏でるなんて最低だ。
そう思ったものの、涙があふれてきてしまい、自分の感情をコントロールできない。


「わけがあるのよね」


大成さんは私を裏切ったりしない。

声に出してみたが、苦しい想いがこみ上げてくるだけだ。


彼が帰ってきたら、どんな顔をして迎えればいい? 
ううん。顔を合わせるなんて、無理。

そう思っていると、バッグの中でスマホが鳴っているのに気づき取り出すと、中野さんからだった。

なに?

なにを言われるのか怖くてたまらない。
私はその電話に出ることができなかった。
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