溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
「私はポンコツ社長でね。もっと大きなことを手掛けろと何度も言われたのに、どうも小さいことをコツコツやるのが向いているようで。大胆な事業は大成のほうが向いているよ」


お父さまは突然そんなことを言いだし、自嘲気味に笑う。


「そもそも私は社長には向いていなかったんだ。身の丈以上の仕事を持つと、周りを見渡す余裕がなくてね。大成のことも、見失ってしまったようだ」


その発言にハッとする。

おそらく私はお父さまを誤解していた。
たしかに大成さんは寂しい思いをした。
けれど、愛情表現が不器用なだけだったのかもしれない。


やがて、ルームサービスのコーヒーがやってきて、中野さんが対応している。


「社長、コーヒーが参りました」

「ありがとう、中野」


中野さんの手からコーヒーを受け取ったお父さまは、「飲みなさい」と私にも勧めてくれる。
そのときの穏やかな顔は、パーティで大成さんに手をあげた人と同じとは思えなかった。
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