私の上司はご近所さん
部長のマンションを後にするとウチに向かう。三人で東京観光をするのは賑やかで楽しいけれど、やはり大好きな部長とふたりきりになるのはうれしい。
手、繋ぎたいな……。
部長のマンションからウチまでは目と鼻の先。それでも、ほんの少しでいいから部長の温もりを感じたいと思った。けれど部長に気持ちを伝える前に、ウチにたどり着いてしまった。こんなときだけご近所さんじゃなければいいのに、と都合のいいことを思ってしまう。
「毎日つき合わせてしまって悪いな」
すでに閉店した食堂の前で、部長が私に向き直る。
「いいえ。もともと夏休みはなにも予定がなかったですし、毎日充実して楽しいです」
「そうか。明日もよろしく頼む」
「はい。任せてください」
自分の胸を握りこぶしでトンと叩くと、部長がクスリと笑った。
爽やかな部長の笑顔をひとり占めできることがうれしい。もっと部長と一緒にいたいという気持ちがフツフツと湧き上がって止まらない。
「部長、明日は……」
帰ってほしくない思いを込めながら、部長との距離を一歩縮める。しかし私の気持ちとは裏腹に、話を遮られてしまった。
「園田さん。おやすみ」
部長の表情は穏やかで、とくに変わった様子は見られない。けれど部長にとって蒸し暑い東京の夏は初めての経験。連日の外出で疲れが溜まっているのかもしれない。それにマンションでは妹の沙也加さんが待っている。これ以上部長を引き留める訳にはいかない。
「はい。おやすみなさい」
まだまだ話足りない気持ちを押さえて部長に挨拶した。