私の上司はご近所さん
沙也加さんと次に会う約束は交わしていない。けれど部長がそう言うのなら、本当にまたすぐ会えると思えるから不思議だ。
「はい。そうですね」
私を慰めてくれる部長の大きな手の温もりが心地いい。ゆっくりと瞳を閉じると少しの間、部長の優しさに甘えた。
「それじゃあ、百花。俺たちもそろそろ帰ろうか」
「……っ!」
弾かれるように顔を上げたのは、部長があまりにも自然に私の名前を呼んだから。
部長と私は上司と部下。だから『園田さん』と呼ばれ、『部長』と呼ぶことが普通で、なんの違和感も抱かずにいた。
「どうした? 名前で呼ばれるのは嫌だったか?」
「いいえっ! 嫌じゃありません」
「そうか。それはよかった」
部長は柔らかい笑みを浮かべると、おもむろに私の手を握った。彼の大きな手に包まれていると、とても安心できる。部長の顔を見上げると、お互いの瞳を見つめて微笑み合った。
「帰る途中で食事をしよう。百花はなにが食べたい?」
今の時刻は午後六時。今から移動すれば、夕食にはちょうどいい時間になる。
「そうですね。なににしましょうか」
部長に『百花』と呼ばれ、手を繋ぎ合い、夜ごはんの相談をする。そんな些細なことが、とてもうれしい。
部長に手を引かれながら、彼の特別な存在になれたことを幸せに思った。