私の上司はご近所さん
食事を終えて、さつき台駅にたどり着く。駅からウチまでは徒歩十五分。部長ともっと一緒にいたい私は、わざとゆっくり足を進めた。しかし部長は私の歩幅に合わせることなく、スタスタと先に進んでしまう。
羽田空港を後にしたときも、食事をするために降りた駅でも、部長は私の手を握って歩調を合わせてくれた。それなのにさつき台駅に着いた途端、つれない態度を取られる理由がわからない。
私、部長を怒らせるようなことした?
まるで人が変わったような様子を見せる部長に戸惑いながらも彼の後を早足で追うと、あっという間にウチにたどり着いてしまった。
「それじゃあ、おやすみ」
まだ今日のお礼を部長に伝えていないし、次に会う約束だってしていない。
「部長っ!」
「ん?」
部長は自分のマンションに向かう足を止めてくれたものの、私との距離は保ったまま。さつき台駅から手を繋いでくれず、さっさと帰ろうとする部長に対して不安と不満を感じた。
足を踏み出して自ら部長との距離を縮めると、彼のシャツの裾をそっと握る。
「どうして……。まだ一緒にいたいのに……」
聞きたいことと言いたいことが山のようにあるのに、涙が邪魔をしてうまく話せない。うつむいて涙を拭っていると、私の耳もとで部長が小さくつぶやいた。
「おいで」
部長はコクリとうなずいた私の手首を掴むと、マンションに向かって足を進め始めた。