私の上司はご近所さん
廊下の右手が寝室、左手はトイレとバスルーム。すでに勝手知ったる部長の部屋を進む。そしてドアを開けてリビングに入ると、部長が「暑いな」と言ってエアコンのリモコンをピッと押した。
「麦茶でいいか?」
キッチンに向かった部長に尋ねられる。
「あっ、私がっ!」
焦ったのは、部長は料理が苦手だということを知っているから。昨日はエビが入ったボウルを盛大にひっくり返した。もしかしたら今日は、グラスを落として割ってしまうかもしれないと思うと、ハラハラしてしまう。
「これくらいできるさ。ソファに座って待っていてくれ」
「それじゃあ、お願いします」
「ああ」
過保護すぎるのはよくない。そう思い直した私は、部長の言葉に甘えることにした。モスグリーン色のソファに腰を下ろすと、スッキリと片づいているリビングを見回す。
掃除は得意みたいなのに、どうして料理は苦手なんだろう。
首を傾げていると、ローテーブルの上にグラスが置かれた。
「お待たせ」
「ありがとうございます」
部長が電源を入れたエアコンのおかげで、リビングが徐々に冷えてきた。それでも、さつき台駅から早足で歩いてきた私の額に薄っすらと滲む汗はまだ引かない。「いただきます」と声をあげると、氷が浮かぶ麦茶を喉に流し込んだ。