私の上司はご近所さん

「いい飲みっぷりだな。もっと飲むか?」

プハッと息を吐いた私の様子を見た部長が、クスクスと笑う。

「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます」

麦茶を一気飲みした色気のない姿を見られたことが恥ずかしい。思わず身を小さくすると、私の隣に部長が座った。

「飾らない百花の様子をずっと見ていたいし、こうやって常に手を繋いでいたいと思っている」

部長はそう言うと、その大きな手で私の手を包んだ。自分の指の間に彼の指が滑り込んでくる。好きという気持ちを込めて、お互いの指を絡ませるように手を握り合うと部長がさらに話を続けた。

「でも、さつき通り商店街では百花には触れないと決めた」

手は繋いだままなのに、まるで私を拒否するようなことを言い出す部長に愕然としてしまう。

「……どうして?」

掠れる声で尋ねると、部長が瞳を伏せた。

「俺の欲求のままに行動すると、傷つく人がいるから」

「傷つく人って?」

「矢野くんのことだ」

「えっ、翔ちゃん?」

どうして突然、翔ちゃんの名前が出るのかわからず困惑してしまう。部長はそんな私を安心させるように、柔らかい笑みを浮かべた。

「さつき通り商店街は人情味があってとてもいい商店街だ。でも些細なことがすぐ噂になる」

部長の言う通り、私が変質者の被害に遭ったときも、夏祭りで倒れたときも、すぐに噂となり、翔ちゃんの耳に入った。

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