私の上司はご近所さん
「百花、今日は藤岡さんとふたりで食事でもしてきたのか?」
翔ちゃんに聞かれた私は首を左右に振る。
「ううん。今日は職場の歓送迎会。部長にタクシーで送ってもらったんだけど、ねえ、翔ちゃん! 部長ってあそこのマンションに住んでいるんだって! すごい偶然じゃない?」
商店街の先にそびえ立つ、十五階建てのマンションを指し示す。
「ふーん、たしかにそれはすごい偶然だな」
「でしょ?」
職場の上司がご近所さんだったという事実を翔ちゃんに話したせいで、テンションがまた上がった。
「藤岡さん。今度ウチに寄ってください。サービスします」
「それはうれしいな。必ず行きます」
翔ちゃんと部長のやり取りは、ひとり興奮している私とは対照的で冷静だ。
「百花、じゃあまたな」
「うん」
裏の倉庫に向かった翔ちゃんに手を振って別れると、再びさつき通り商店街を進んだ。
「部長、あれが私の家です」
矢野ベーカリーの斜め向かいの店舗『そのだ食堂』が私の家。入り口の横のショーケースにはトンカツ定食に生姜焼き定食、カレーライスなどの食品サンプルが並んでいる。木造二階建ての古びた建物はお世辞にもオシャレとは言えない。けれど祖父と父親が腕をふるう料理は世界一おいしいと断言できる。