アナタに逢いました
暫く絵に魅了され立ち止まっていたけれど

ゴンっと恭哉が床に転がった音に意識が戻ってきた

「恭哉?大丈夫?!」

駆け寄ると…すーすーと寝息が聞こえてまだ寝ているようだ

(…まだ寝てる…痛くないの?)


残りの展示もサラッとみたが…恭哉の作品はあの2つで…
あの瓶覗とガントリークレーンの夜空ほど惹かれる作品は他にはなかった

(帰るかな。とりあえず起こすか)

「きょーうーやー!起きて!起きて!」

床にペタリと伏せた恭哉を揺すぶってみると

「ん…?」

と、恭哉が目を擦りながらゆっくり上半身を起こすと

「おはよ。きりんちゃん…」

ふぁっと花が開くように柔らかく笑って
私の首に手を回して抱きついてきた


「うギャッ」

ビックリして思わずドンっと突き飛ばして
また恭哉を床に伏せてしまった

(床ドン…)

意味が違う…

「…んだよ…イテー。キョウボウだな!きりんちゃん」

「は?恭哉が急にだ、だ、だ、抱きつくからっ!!」

「ナニ?ヨクジョーしちゃった?」

ぺろりと唇を舐めて、ニヤリと笑う恭哉

ふわふわはした見た目でぼんやりして見えるのに…

いやに艶かしい舌の動きに色気が溢れていて…私は顔が熱くなるのを感じた

「な、な…」

「あれ、当たり?」

(なんなのこの男、急に色気出すとか聞いてない!!)

「当たりじゃないっ!ハズレよハズレ!」

「ふふ…おもしれ」

目を細めたその姿はふわふわからは程遠い
獰猛な肉食獣に見えた

ぞくり、肌が粟立つ

「そ、そ、それより!
この絵…すごいね!見上げるキリン…私…好きだな」

誤魔化すように恭哉から離れると
夜空のガントリークレーンの絵を指差した

「きりんだけに?…フフ」

「それもあるけど…」

「あるんだ」

「届かない月を見上げてるきりんがさ…私みたい」

「…」

(普通に仕事して普通に恋してただけだったのに)

私もいつも月を見上げては焦がれている

…気付いたら恭哉が私の頭を撫でていた

「……泣くなよ…」

「え…」

恭哉の瞳が月みたいに静かに光って
節張った、けれど綺麗な長い指が頬にかかる

視界いっぱいに恭哉が近付いて唇が重な……

「はい、そこまでー」

ムギュと手が視界の真ん中に現れ
顔に押し付けられた

< 5 / 18 >

この作品をシェア

pagetop