PMに恋したら
そういえば彼は仕事でパトカーに乗っているんだった。
「いつもシバケンが運転してるの?」
「いや、俺と高木が交代で。でも大体は俺かな。運転好きだから」
「そうなんだ」
「実弥を乗せてるんだから、絶対に事故らないから安心して」
シバケンが横にいて不安に思うことなんて絶対にない。この人は私を守ってくれる。そう信じているのだから。
自宅近くの信号で止まった時、視線を感じてふと窓の外を見ると歩道に坂崎さんが歩いているのが見えた。
こっちを見ているような視線を感じたのに、坂崎さんは真っ直ぐ前を見て駅の方まで歩いている。私が乗っていると気づかれたかと思ったのは気のせいかもしれない。
今までずっと引き留められて家にいたのだろうか。私が帰ってくるまで父に帰らせてもらえなかったのだと思ったら気の毒になる。傲慢な父のせいで休日を無駄にしてしまうなんて男性会社員は大変だな、なんて他人事のように思った。シバケンだって会社員ではないけれど仕事柄様々なストレスを抱えているのかもしれない。
自宅の前に止めた車から降りると、私の後ろに立って髪を手で整え全身をチェックするシバケンの緊張が私にも伝わってくる。自宅の鍵はもちろん持っているけれど、敢えてチャイムを鳴らした。
「はい」
ドアホンを通した母の声に「私……」と小さく伝えると、しばらくして母が玄関から顔を出した。
「実弥? ……と?」
母はシバケンの姿に驚いて言葉を失った。
「初めまして! 柴田健人と申します!」
まるで面接でもするかのように、大きくはっきりとした声で母に名乗ったシバケンは深く頭を下げた。つられて母も頭を下げると再度「え? え?」と困惑した。