PMに恋したら
「お父さんいるよね?」
「いるけど……」
「彼を紹介したいの」
そう言うと母は「そう……」と言ってますます困った顔をした。
いつもそうだ。母は父に強い態度を取ることはなく、どこか遠慮していた。私が進路に悩み父に反発していたときも、母は味方になってくれることはなかった。それは警察官になりたいという夢を父に反対されたこと以上にショックを受けたのだ。
母の反応は気にも留めず、私は玄関のドアの間を抜けて中に入った。後ろからシバケンの「お邪魔します」と言う声と母の「どうぞ」と言う会話が聞こえた。
リビングに入ると父はコーヒーを飲みながらニュース番組を見ていた。テーブルにはノートパソコンと数枚の書類が広げられている。先ほど坂崎さんを見かけたということは、今まで二人で仕事の話でもしていたのかもしれない。
「お父さん……」
声をかけると父は私を見て眉間にしわを寄せた。
「どこに行っていたんだ。坂崎君はさっきまで待っていてくれたんだぞ」
「私は待っててなんて頼んでないし」
こちらの話も聞かずに勝手に坂崎さんを呼んだくせに、私を怒るなんて本当に父は勝手だ。
「何だその言い方は!」
父の怒鳴り声にももう脅えたりしない。
「私の恋人を紹介したいの」
テレビの音量にも父の怒鳴り声にも負けない声ではっきり言った。それでも父は顔色一つ変えない。
「別れなさいと言っただろう」
「別れるわけないじゃない。お父さんの言うことを聞いたりしない」
「実弥!」
後ろに控えた母が私の父への態度を叱責する。けれど私は譲らない。今更母に味方になってほしいとも思わない。
「失礼します」
シバケンの声がして振り返ると、彼は私の後ろから出てきてリビングの中に入り父の前に立った。