PMに恋したら
「初めまして、柴田健人と申します」
私の横に立ったシバケンは先程母に挨拶したのと同じように深く頭を下げると父を真っ直ぐ見た。
「実弥さんとお付き合いさせて頂いています」
スーツを着て背筋を伸ばしたシバケンは仕事をしているときと同じで頼り甲斐があった。
「お引き取りください」
父はシバケンを睨みつけ冷たく言い放った。
「地方公務員の下っ端ごときでは大事な娘は相応しくない」
「お父さん!」
あまりの態度に私も大声を出した。
「失礼なこと言わないで!」
怒りで肩が震える。シバケンをバカにすることは親といえども許せることではない。
「話を聞いて!」
「実弥とは別れてください」
目を見開いて固まる私を無視して父とシバケンは視線を合わせた。
「実弥は私の会社の部下と結婚させるつもりです」
「そんなの嫌! 勝手に決めないで!」
あまりの勝手さに声まで震えた。坂崎さんと結婚なんて絶対に嫌だ。本当に父は私の結婚相手まで決めようとしていることが腹立たしく悲しかった。
「実弥には将来有望な男と結婚して幸せな暮らしをしてもらいたい」
「坂崎さんと結婚しても全然幸せになれない!」
「お前は黙りなさい!!」
父の怒鳴り声に怯んだけれど、すぐに怒りで全身に鳥肌が立った。
「っ……」
言い返そうと大きく息を吸ったとき、私の肩に温かい感触がした。見るとシバケンが肩に手を載せぽんぽんと優しく叩いた。その顔はいつも私に見せてくれる穏やかで優しい顔だった。
怒りが治まるのを感じた。肩の力が抜けてシバケンに抱きつきたいとさえ思った。そのシバケンは私の肩に置いた手を下ろすと再び父に向き合った。
「僕も将来有望な男ですよ」
その意外な言葉に私だけではなく父も彼の顔を凝視した。