PMに恋したら

ソファーに座り書類を手にしながら坂崎さんは今日も爽やかに私に笑いかけた。

「こんばんは……」

坂崎さんは何度見てもうっとりするほど整った顔を惜しげもなく私に向けた。少し乱れた髪とネクタイの緩んだ首もとから見える鎖骨が色気を出している。

普通ならこの人と結婚するかもしれない状況なら喜んだかもしれない。もし私にシバケンがいなければ父に反発しながらも坂崎さんを受け入れただろう。裏の顔があるのではと警戒してしまう笑顔だって気にならなかったかもしれない。

テーブルの半分に母が作った料理の皿が並び、もう半分はノートパソコンや父の会社の資料だろうコピー用紙が散乱している。

「さあ、お父さんも坂崎さんも片付けてくださいね。ご飯ですよ」

母は刺身の盛り合わせをテーブルの真ん中に置いた。父と坂崎さんは慌ててテーブルの上を片付け始めた。そうして私だけが気まずい晩餐会が始まった。

父と坂崎さんだけが会話をし、私と母はほとんど無言で食事をしていた。
私も会話をさせようと父は話題を振ってきても「うん」「そう」としか返事をしなかった。こんな素っ気ない愛想の悪い態度でいたら、いい加減坂崎さんも呆れるだろう。けれど彼は私の様子をどこか楽しそうに見ている。目が合えば笑いかけ、父の言葉に答えようとしない私をじっと観察するかのようだ。
整った顔に見つめられたら居心地が悪い。

坂崎さんが何を考えているのか分からない。父に従いながら結婚相手まで決められそうなのに、この人は何も言わないのだろうか。会社での立場を守るために父に逆らえないとはいえ、もう少し反抗してもよさそうなのに。

「ごちそうさまでした」

食べ終えた食器を片付けると、父が引き留める声を無視して2階に上がって自分の部屋に入った。ドアを閉めると肩の力が抜け、安心からか「ふぅ……」と溜め息をついた。
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