主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
ふたりは幼いながら利発で、特に朔は祖父の晴明から本を借りて読んだり議論したりすることが多く、輝夜の言いたいことをうまくまとめて雪男に説明した。


…つまり息吹に関する何かが起きるらしい。

最近は特に何事もなく平穏な日々を過ごしていたが…また息吹に何かが起きるとなると、それは夫の十六夜に伝えなければならない。

だが話をきくにあたってそれはふたりと約束をしてしまったため、雪男は真っ青な髪をがりがりかいて深いため息をついた。


「息吹が危ない目に遭うのか?」


「いえ、そういう感じじゃなくて…」


「輝夜にもまだぼんやりとしかわ分からないんだ。だから明日それをふたりで見に行こうっていう話をしてた」


「ふたりで幽玄橋を渡ったことないだろ?お前たちは幽玄橋から一歩向こうの平安町を歩くことは禁じられているんだぞ。それは俺が許さない」


「止めたって行く。母様が関係してることなんだ。放っておくとそれこそ危ないことになるかもしれない」


朔にはすでに次代の当主としての風格があり、他の弟妹のようにまだ童らしくしていればいいのにと思いながら雪男は朔の頬をむにっと引っ張った。


「分かった。じゃあ俺が一緒について行く」


「…父様たちに言うのか?」


「約束しただろ、言わないよ。言わないけど俺がお前たちが勝手なことをしないように目付け役としてついて行くんだ。…ばれたらすげえ怒られるだろうな…」


また深いため息をついた雪男の両隣でふたりがにっこり笑う。


「大丈夫ですよ、私たちが庇ってあげますから」


「そうだぞ、俺たちに任せろ」


「はいはい、よろしくお願いしますよ。そら、早く寝ろ!」


両腕にひょいっと脇を抱えられた朔と輝夜が楽しげな声を上げて足をばたばたさせる。

そのまま寝室に連れて行かれて床に転がされると、ふたりが寝るまで雪男はその場に留まって見守り、寝息が聞こえた頃その場を離れて夫婦の部屋で寝ている息吹の様子を見に行った。


「…なんでお前ばっかりなんだろうな」


必ず守ってやる。

子供たちも、お前のことも。
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