主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
妖は夜に活動するため朝に少し寝る。

だが朔と輝夜はまだ幼かったので朝でも昼でも夜でも眠たい。

母の息吹は人なため夜には必ず寝る。

ふたりはこの時を利用して、縁側で話し合っていた。


「輝夜、何が見えてるのか教えてくれないか」


「…言えません。だけど明日になれば分かります」


頑なに見えている光景を話すことを拒む輝夜は、黙ってしまった兄の朔の着物の袖をきゅっと掴んで眉根を絞った


「…嫌いになりましたか?」


「こんなことで嫌いになんかならない。ていうか、何があっても絶対にならない」


頭を撫でられて安心した輝夜は、燦然と輝く星空を見上げた。


「見たくもないもの、聞きたくないものが見えたり聞こえたりするんです。私はそれをどうにかしなきゃいけないんだ」


「どうしてお前だけ…」


「私がどうしても母様のお腹から産まれたくて、我が儘を言ったんでしょう。その報いだと思うんです」


――時々難しいことを言う弟の悲しげな横顔に口を開きかけた時、背後からことりと音がしてふたりが慌てて振り返る。


「おい餓鬼共。何の悪だくみをしてるんだよ」


「雪男…」


父の代からの側近で、兼教育係の雪男に見つかってしまったふたりはばつが悪そうな表情で視線を庭に戻す。


「別に」


「別にって顔じゃなかったけどな。ほら、何を隠してんだ。言え!」


同時にわき腹をくすぐられて可愛い声を上げて笑ったふたりは、この容姿端麗で凄腕の男を信頼している。

ただ彼の主君は自分たちの父なので、このことを話してしまえば、ばらされてしまうかもしれない――


「俺たちだけの秘密だから誰にも言わないって約束してくれ」


「おう、いいぜ」


隣に座った雪男にちらりと視線をやった後、ふたりは顔を見合わせて輝夜の杞憂を雪男に話した。
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