主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
嫌な予感は大抵当たる。

息吹は主さまに文を出した後、いつも通り百合の元に戻って失っていた親子の絆を深めようとしていたが――百合の体調は日によって変わり、病魔の進行は晴明の薬をもってしても止めることはできなかった。


顔色も良くなく、無理をさせないようにとその場を離れて所在なさげに廊下を歩いていると、庭で誰かの気配がしたためそちらに立ち寄った。


「あれ?輝ちゃん?」


「母様」


ふわっと笑ったのは次男の輝夜で、女とも男とも見紛うその笑顔に息吹は草履を履いて庭に下りるとだいぶ長くなった黒髪を撫でた。


「来てたなら声をかけてくれればいいのに」


「いえ、邪魔をしたくありませんから。お加減はいかがですか?」


「うーん、今日はあんまり良くないみたいで…。そうだ輝ちゃん、一緒にお買い物に行かない?」


「はい」


化粧箱を取り出した息吹は、お揃いの橙の髪紐を出して緩く結んでやると、百合の薬を作っていた晴明に声をかけた。


「父様、少し出かけてきてもいいですか?」


「いいとも。輝夜、後でお祖父様と一緒に遊んでおくれ」


「喜んで」


手を繋いで門を出ると、平安町の大きな通りに出て少し背が伸びた気がする輝夜を愛しい眼差しで見つめた。


「輝ちゃん少し大きくなった?」


「ふふ、大きくなってませんよ。今は少し離れて暮らしてますからそう見えるだけかも」


「そう?なんか前より大人びた気がするし…。朔ちゃんも輝ちゃんも成長期になったらすぐ大きくなるっていうし…。今のうちに沢山抱っこさせてもらおっかな」


――寂しがる息吹に心の中で何度も謝った。


大きくなる前に家を出て行くであろう自分を許してくれるだろうか――


それを考えるだけで、小さな胸はずきずきと痛んで輝夜をはにかませた。
< 103 / 135 >

この作品をシェア

pagetop