主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
雪男は眠っている息吹を抱いた主さまが突然戻って来て驚きすぎて言葉を失っていた。


「床を敷け。息吹を寝かせる」


「な…っ、主さま!?百鬼夜行は?それに…息吹!?輝夜、お前目が腫れてるぞ!?」


ぐずぐず鼻を鳴らしながら抱き着いてきた輝夜を落ち着かせるために膝を折って抱きしめて背中を撫でてやっていると――朔はじっと何かに耐えているような表情をしていて、それも気にかかって手を伸ばした。


「こっち来い、お前は泣いた方がいい」


「…俺は長男だから…泣かない」


「泣くのに長男も次男もねえっつーの。ほら、早く来いって」


手招きをすると吸い寄せられるようにして雪男に抱き着いた朔は、肩に顔を埋めてじっとしていた。

だが肩が濡れる感触がして、この長男は長男で色々なものを抱えつつ耐えているのだなと思うと切なくなって、主さまを見上げた。


「床は山姫に敷いてもらってくれ。俺はふたりを落ち着かせるから」


「…分かった。頼んだ」


――経緯を訊いていいものかどうか。

しばし逡巡したが、息吹の元へ行っていたふたりが主さまと共に…それも息吹も一緒に戻って来たということは、のっぴきならない事情があったはずだ。


きっと後で主さまが事情を話してくれるだろうと楽観的に考えた雪男は、左右に朔と輝夜を抱いてどっかり腰を下ろすと、かたやぐずぐず言っている輝夜と、かたや押し黙ったまま泣いている朔の頭をよしよしと撫でて息をついた。


「息吹は寝てるだけだろ?」


「…多分。父様は何度か同じ光景を見たことがあるから大丈夫だって言ってた」


「あ、そっか、じゃあ多分俺も見たことある現象だな。大丈夫大丈夫!お前らははじめて見たからびっくりしたよな。そっかあ…また共感しちまったんだな」


雪男が苦笑すると、主さまに次いで雪男も見たことがあると言われて安心した朔と輝夜は、顔を上げて目を真っ赤にしながら再度問うた。


「母様は…大丈夫なんだな?」


「ん、大丈夫大丈夫。こういうのは大人に任せとけって」


――安心しきった二人は緊張の糸が切れて、雪男に身体を預けてそのまま眠ってしまった。


雪男はふたりを床に寝かしつけた後――主さまの部屋に向かった。

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