主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
翌朝朔たちが目を覚ますと、主さまはまだ寝ぼけ眼の三人の頭を代わる代わる撫でて、重々言い聞かせた。


「天満はまだ知らないだろうが、我が家には秘密がある。今まで黙っていたが隠しているつもりじゃなかったんだ。ちゃんと俺が解決して、お前たちにちゃんと説明するから待ってくれるか?」


珍しくよく話す父の真面目な表情に朔が頷くと、相次いで輝夜と天満も揃って頷いた。

朔がそうやって信じるのなら自分たちは決してそれを疑わない――その意思の表れに主さまは少し微笑んで腰を上げると、部屋の外で待っていた雪男と共に地下へ向かった。


「…あれを斬るとどうなる?」


「死なねえんじゃねえかな。だってあそこに入ってどの位経つ?何代前からの話だよ。多分それも何かしら秘密があるんだ」


「…」


結界を解いて地下へ降りると、件の少女――花は、待ち受けていたかのようにすうっと目を開けて手招きをしてきた。


主さまは刀を手に無言のまま花の前で立ち止まり、冷淡な目で見下ろした。


「俺の妻に何かしたな?」


『……見て…いるのよ…』


「…何をだ」


『………私と…下弦の出会いを…』


「それを見せてどうなる?どうするつもりだ」


――ことさら息吹のことになると激高してしまう主さまの肩を引いて落ち着かせた雪男は、同じ系統の青い目で花をじっと見て説いた。


「俺たちにとっちゃ息吹は欠かせない大切な存在なんだ。何かあったら困るんだ」


『…見ているだけよ…何も…起こらないわ…』


「何故直系の俺ではなく息吹なんだ?ちゃんと説明しろ」


息吹がここへ来た時のことを思い出した。

この人は、自分の待ち望んでいるものを持ってきてくれる――

そう確信したからこそ、願いを託したのだ。


『あの人じゃないと…駄目だったの…』


「だから…何故…!」


「主さま、落ち着けって」


小さく舌打ちをした主さまが身を翻して檻から離れて上へ上がってゆく。

雪男はちらりと花を一瞥した後主さまを追いかけた。


花はただただ黙って、それを見ていた。

そうすることしか、できなかった。
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