主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
下弦と花が仲睦まじく談笑しているのを見ていたのだが、誰かに呼ばれた気がしてぱっと顔を上げた。


…まだ戻れない。

本来ならおおよそ短時間で行ったり来たりを繰り返すのだが…今回は長い。

途切れ途切れに光景が変わって、その度にふたりの仲が深まっていくのを感じていた。


――下弦には生まれたての赤子が居る。

この子が夫の…主さまの祖先となるのだろうが、その子や妻を放っておいて日がな花と一緒に居る下弦にもやもやした感情を抱き始めていた。


「私が同じ立場だったら…つらいな…」


割り切った夫婦関係であることは、ふたりの妻と下弦が話しているのを見ていて分かった。

鬼八を封印し続けるためには次世代を担う子が必要になる。

だからこそ恋愛感情がなくとも妻を娶って子を作り、今の家が在る――


「…駄目駄目、主さまを否定することになっちゃう!」


恋をして、恋をされて夫婦になれた。

それがいかに困難であり奇跡であったかを痛感して、今以上に主さまや朔たちを大切にしようと心に決めた息吹は、下弦と花の会話に耳を澄ました。


「ここの暮らしは慣れた?」


『ええ…慣れたけれど、これ以上迷惑をかけられないわ。傷が癒えたらここを出て行かなくちゃ』


「そんな…また危ない目に遭う必要はないよ。ここに居ればいい」


『駄目よ、私は追われているの。人生ずっと、追われ続ける運命なの。…私はなんでも叶えてしまう。私が望まなくてもそうなってしまうの。だから…』


下弦は花の真っ青な目をじっと見つめた。

花は目が合うなり視線を逸らして、口ごもった。


『駄目よ…そんな目でみないで…』


「行ってほしくないんだ。だから…よく考えて」


この先はきっと悲しい結末になる。

息吹はそう悟っていたが、花に呼び寄せられた理由をこの目で見るために、ふたりから目を逸らさなかった。
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