主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
無言で赤子を腕に抱かせられた下弦は、一番目に娶った妻に苦笑を滲ませた。


恋愛感情は双方共にない。

親が決めた縁談であり、それは当主として避けられないもので、受ける他なかった。

だが中々子に恵まれず、二番目の妻を娶った数か月後に一番目の妻が妊娠した。


これでもうすぐ自分の役目は終わる――それをどれだけ喜んだことか。

代々力が強い者が多く、自分も例に漏れず強い力を受け継いだが、戦うことを嫌った。

だが何故か直系の当主には子がひとりしか生まれず、自分が継ぐしかなかった。


「…この子が大きくなって僕の跡を継ぐまでどの位かかるかな」


「知りません。あなたは父なのですから、この子を可愛がって下さい」


冷たい声にまた苦笑した下弦は、その赤子を抱いたまま花の部屋を訪れて、花の驚いた表情に肩を竦めておどけて見せた。


「僕の子なんだ。僕に似て可愛いでしょ?」


『あなたの子…?可愛い…』


おくるみに包まれた赤子を差し出すと、花はおどおどしながらもその腕に抱いて、ふわりと笑った。


『ここばかりに来てないで、奥さんやこの子の傍に居てあげないと』


「それじゃ君がひとりになってしまう」


『私はいいのよ、ひとりに慣れているから』


「ひとりになんて慣れちゃ駄目だ。僕が傍に居るから。だからひとりなんて言わないで」


――下弦の目が…目の奥に、炎を見た。


好かれている――

そう知った時…


逃げなければ、と思った。
< 133 / 135 >

この作品をシェア

pagetop