主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
眠っているように見える息吹の傍に居た輝夜がふと顔を上げた。

朔は膝を抱えて輝夜と共に居たが、こうして何かに呼ばれたかのような顔をする時は要注意だと知っていた。


「輝夜?」


「兄さん…私は身体を貸さなければいけないんです」


「…誰に?」


「下弦という僕たちのご先祖様に」


同じく傍に居た主さまは、一瞬ぎゅっと目を閉じてやはり、と思った。

輝夜や息吹は精神感応力が強く、人の感情に引きずり込まれる時がある。


息吹は何度か経験しているが、まだ十にも満たない我が子が他者の感情に触れてどうなるか――

元々泣き虫で、感情に引きずられてはよく泣く輝夜がどうなってしまうのか…想像だにできない。


「…輝夜、それはよせ」


「でも…私は約束をしてしまったから…」


「お前はまだ駄目だ。息吹がこの状況なのにお前もこうなってしまったら俺は…」


――父は、母が居ないと駄目な男だ。

今でさえ落ち着いているが、息吹が外出して少し帰るのが遅くなっただけで動揺するような、駄目な男なのだ。


下弦に身体を貸すのは、息吹が目覚めてから。


「母様…」


輝夜は息吹の手をそっと握った。


あの金髪碧眼の男と約束したから、別れの日はそう遠くはない。


この母が大事で大切で、だからこそこの人の元に生まれて来ようとしたのに――結局離れなければならない。


「私はそういう運命なのかな…」


「輝夜、何を言ってるんだ?聞いてやるから話せ」


「兄さん、私は大丈夫ですよ。父様に心配をかけたくないから身体を貸すのは少し先にします」


主さまは無言のままに輝夜を膝に乗せて、寄り添ってきた朔の肩を抱いて息吹の目覚めを待った。
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