主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
「おや、これは珍しいことだねえ」


時間をある程度置いて戻って来た晴明は、主さまが息吹の膝枕で寝入っているのを見てにやにやした。

こういった隙をなかなか見せない男が無防備に寝入る姿は晴明にとって強請りのいい話題になるのだ。


「なんか疲れてるみたい。お家で何かあってるのかな…」


「…そんなことはないだろう。そなたが居ないから寂しいだけだよ」


主さまの寝顔はいつもの仏頂面よりかはかなり安らいで見えるため、息吹は童にするように頭を撫でてやりながら隣に座った晴明を見つめた。


「とてもおかしなことが起きている気がするんです。父様は何も感じない?」


「ふむ、私は感じやすい方だがとんと何も感じないねえ。そなたは何か分かるのかい?」


「分かるっていうか…輝ちゃんはちょっと様子がおかしいし、主さまはいつもより緊張してるみたいだし。私を簡単に送り出してくれたのもちょっと気になって…」


笑顔がとてもよく似合う愛娘の表情が翳ることをよしとしない晴明は、息吹の頬をそっと手の甲で撫でて笑った。


「実母が現れたのだから邪険にはできまいよ。それこそ邪険にするならば鬼の所業というもの。十六夜はそなたが百合殿とゆったりとした時間を過ごせるよう願っているだけだよ」


「そう…ですよね。私の考えすぎだよね」


ぱっと笑顔を見せた息吹は熟睡している主さまに目を落とした。

主さまとこうした穏やかな時間を過ごすことができるまでまだまだ時間がかかる。

朔が大きくなって実力が伴うまであとどのくらいかかるのだろうか――?


「でもまだまだ朔ちゃんたちにはやんちゃな子供であってほしいな」


ひとりごちると、晴明はまたにやにやしつつ主さまの寝顔を見ながらそれに答えた。


「鬼の成長は速いからねえ。一瞬一瞬を見逃さぬようにすることだ。特に…」


「特に?」


「いや、なんでもないよ。さあお邪魔虫は退散しよう。百合殿は私が見ているからゆっくりしなさい」


「はい」


――晴明はその場から離れて廊下を歩きながらぼそりと呟いた。


「特に…輝夜は」


息吹に聞こえないように。
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