主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
あまり取り乱すことのない輝夜が取り乱すと朔も落ち着かなくなる。

ふたりはまるで一心同体で、片方に何かあればもう片方も同じ症状に陥ることが多い。


「…朔、少し落ち着け」


「落ち着いてます…多分」


「…輝夜もお前も知ってしまった。俺が現当主としてあれをどうにかする必要がある。お前に代を譲るまでには決着をつけてやりたいが…」


――縁側では輝夜が少しそわそわしながら手遊びをしていた。

落ち着きがないことは珍しく、朔も輝夜を何度もちらちら見て様子を見ていた。

主さまは朔の頭を撫でて輝夜の隣に行くと、不安そうに見上げてきた輝夜の歳に見合わぬ思慮深い深淵の黒瞳を見つめた。


「…気になるか」


「…また声がしたので」


「なんと言っていた?」


「……」


まただんまり。

自分で解決しようとしているのか、それともこれから起きるであろう出来事に関することは輝夜は話さない。

主さまはふたりから目を離さず必ず目の届く位置に居る雪男に目配せして後を頼むと、自室に戻って本棚の奥に隠していたあの書物を取り出した。


「…これがなんだというんだ」


開こうとすると相変わらず強力な結界に阻まれて火花が飛び散った。

表紙に書かれてある“下弦”という名だけが唯一の手掛かりで、主さまはあの後家系図を見直してその名の当主が以前いたことを確認していた。


「下弦…」


…恐ろしく短い生を終えていた。

不慮の事故なのか、長い命を全うすることなく死んでいる。


「まさか…あれに殺されたのか?」


これに書かれてあるはずなのだ。


一体何が起きてお前は死んだ?

一体…何を思ってこれを書き残した?


「教えてくれ」


ひとり呟いて唇を噛み締めた。
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