主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
主さまは下弦という当主が残した書物に様々な術を試して何とか開こうと試行錯誤していた。

その度に阻まれて思わず舌打ちをすると、乱暴に書物を掴んで部屋を出て縁側に投げ出して寝転んだ。


「面倒な…」


「諦めんのか?」


「…まさか。俺はあれを追い出したいんだ。あんなものが居てはおちおち屋敷を空けていられん」


居間で文を読んでいた雪男に声をかけられた主さまは、落ち着きなく庭を何やら彷徨っている輝夜に目をやった。


「…輝夜はだいぶ感化されているな」


「ああ、何か見たんだろ。ああなると止められないぜ」


それは何とかして阻まなければならない。

いつかは話さなければならなかった事情とはいえ、輝夜は特別な力を持って生まれた子。

掻き消えてしまうような妙な色気があり、それを主さま含め皆が心配していたが――

輝夜と目が合った主さまは、脇に置いていた書物を目ざとく見つけて近寄って来る輝夜を見て起き上がると懐に直した。


「…どうした」


「父様、その書物…私に見せてもらえますか?」


「いや、これはまだ俺が調べている最中で…」


「父様…妙な力を感じるんです。それ…」


書物から目を離さない輝夜に不安を覚えたが――主さまは仕方なく書物を懐から出して輝夜に触れさせぬよう眼前に翳した。


「これは…?」


「…あれに関わった当時の当主が残したものだ。…だが開かない」


「いいえ、これは…」


――輝夜が書物に主さまと同じように手を翳した。


すると閃光が迸って皆の目を焼き、主さまが咄嗟に輝夜を抱きしめて庇うと…書物が宙に浮いて皆が目を見張る。


「主さま、輝夜!離れろ!」


「いや、待て」


ぱらり――


強固な結界に包まれていたはずの書物が――開く。


輝夜の目の焦点が合わなくなった。

主さまは言い知れぬ運命を背負った輝夜を抱きしめて離さず、書物を睨みつけた。
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