主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
輝夜の身体から力が抜けて昏倒した。

主さまが必死になって呼びかけるも全く反応がなく――まるで魂が身体から抜けたかのような異様な状況に主さまが珍しく声を荒げた。


「輝夜!輝夜!!」


「主さま落ち着け。息はしてるから死んでない。俺は晴明に文を出すから呼びかけ続けて」


いつでもすぐ文が出せるよう晴明が術を込めた札に何かを書き殴った雪男が空に向けて飛ばすと、鳥の形になって一目散に晴明の元へ飛んで行く。


…いくら忙しくとも、いくら口数が少なくとも、我が子は力の限り愛している。


この子が普通でないこと位生まれる前から知ってはいるが、こんな…こんな妙な力を持って生まれてしまっては、この子は平穏に生きられないかもしれない――


「輝夜…しっかりしろ。飲み込まれるな。お前はお前なんだ。意識を保つんだ」


何かに感化されている――書物は相変わらず宙に浮いたままで、書物から放たれている光を一心に浴びている輝夜は目を閉じたままぴくりとも動かない。


輝夜が生まれる前、息吹と約束し合った。

この子に何があっても愛して、慈しんで育てよう、と。

何が欠けていてもこの子は自分たちが望んで望んで生まれたきた子だから、笑いの絶えない家にして愛そう、と。


「主さま、晴明から返事が来た。こっちにすぐ来る」


「…息吹は」


「ひとりで行く、とだけ書いてある。坊と息吹は留まらせた方がいい」


「…分かっている」


「……花…」


――輝夜の口から、およそ輝夜の声ではない低い男の呟きが聞こえた。


その声は…

愛しさに溢れていて、そして悲しみと絶望に蝕まれて苛まれた声だった。

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