主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
主さまは険しい表情のまま輝夜を抱えて上階へ出ると、絞り出すように苦しげに呟いた。


「…息吹になんと言えば…」


「息吹はしばらく帰ってこれないから言う必要ない。それよか主さまが息吹に会う時ばれないよう気を付けないと」


「…そんなことは分かっている」


――輝夜は下弦に身体を乗っ取られた。

そして何を試しても開かなかった書物が開いた…

これは最後まで読まなければならない――ここに全てが書いてあるはずだ。


「…俺をしばらくひとりにさせてくれ」


「分かった。後で俺にもその書物見せてくれ」


「…ああ」


「坊が帰ってくるまでに輝夜が起きるといいけど」


ぐったりした輝夜の顔には生気がなく、雪男は慎重に輝夜を主さまから渡してもらってあたたかな日差しが降り注ぐ縁側に連れて行った。


身体を乗っ取られるという現象…この子には不思議なことが多すぎる。

何をも受け入れて、何をも愛そうとするその姿勢は前から感じてはいたが、このままでは本当に全てを乗っ取られるのではないのだろうか?


「おい輝夜、兄ちゃんが心配するから早く起きろ。お前が起きないと俺があいつから責められまくるんだからな」


返事はなく、心配になって口元に手を翳してみるとちゃんと息はしている。

長男と次兄――共にとても強くしなやかで、朔の代の百鬼夜行には輝夜を加えると史上最強の強さになるのではないかと皆が口々に話していたが、そういう時輝夜は何故かいつも少し寂しそうに微笑んでいる。


「居なくなるなよ、輝夜」


朔がとてもとても悲しむから。
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