主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
朔が戻って来ると、輝夜の目に生気が戻った。

息を切らして屋敷に駆けこんできた朔は、青白い顔をして不安そうな表情を浮かべている輝夜を抱きしめた。


「輝夜…どうした?」


「私の中に下弦が…」


「下弦?」


「兄さん、地下の方は下弦を待っているんです。だから私は身体を貸して…」


「そんなこと二度とするんじゃない」


強い口調で咎められた輝夜はしゅんとなって俯いた。

誰かのためになるならばと親切心から身体を貸したが、乗っ取られるような印象ではなく、下弦であって自分であった――そういう印象だった。


「ごめんなさい」


「俺も大きい声出してごめん。雪男、父様は?」


「ああ、あの変な書物が開いたんだ。だから今主さまが部屋に籠もって見分してるから。晴明お前はなんで来たんだよ」


黙って静観していた晴明は肩を竦めて輝夜の隣に座ると、瞼を押し上げて眼球の動きを見たり輝夜の身体を診ながら小さな声で囁いた。


「朔が弟に何か起きたかもしれないと言ったからだよ。そして息吹も何かに気付いていたようだったねえ」


「!それはまずいぞ」


「そうなんだ。あの子が首を突っ込んでしまうと十六夜が平静を保てぬ。今や息吹なしでは生きていられないからね、十六夜は」


「…そっか。ま、とりあえず輝夜。お前ちょっとしばらくそこで正座して反省しろ。坊ももっと叱ってやれ」


「うるさい。もう輝夜は反省してるからいいんだ」


言われた通り正座して俯いている輝夜の顔を両手で挟んで上げさせた朔は、安心させるようににこっと笑いかけた。


「俺がいるから心配するな。いいな?」


「はい、兄さん」


ほっとした顔を見せた。

朔もまたほっとして、その手を握った。
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