主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
それは衝撃の内容だった。

それは、あってはならないことだった。

それは、許されない恋の物語だった。


「そんなバカな…」


主さまは自室に籠もり、口を押えて絶句した。

“渡り”と“妖”はそもそも別の生き物。

思想も違えば生まれ方も違い、およそ人に対して慈悲など持ち合わせない殺戮を好む者が多い。

あの花と名付けられた女もその“渡り”であり、どういった経緯からこの国にたどり着いたか――その詳細がつぶさに書かれていた。


「だから…追い出せないのか…」


生前の下弦と花は約束を交わしていた。

その約束を守るために花は地下に居座り、待ち続けている。


「それと輝夜がどう関係が…」


花に干渉されて憂いを拭えない次男。

元々からして生まれが特殊で、そして広く人々に幸せであってほしいと願い、まだその小さな手を万人に伸ばそうとする。

だからこそ、花に干渉された輝夜はもうその憂いを晴らさない限りは平穏ではいられないだろう。


「守っていたんだな…下弦」


――下弦という当時の当主。

恐ろしく腕が立ち、また慕われたことが書かれていたが、性根は優しく殺生を好まぬ気弱な一面があると書かれてある。

…およそ逆の気性である主さまはその下弦の思想に共感することはできず、また花を匿って立場を危ぶめたことに怒っていた。


「…こんなことがあったとは」


父の潭月からは何も聞いていない。

代を譲られた時に地下にいる“渡り”を封印し続けること――それだけしか教えてくれなかった潭月にも怒りの矛先が向けられた。


「雪男」


「おう」


「父を呼べ」


「了解」


部屋の外に控えていた雪男が去る気配がすると、主さまは自身で書物に封印をして部屋の隅に放り投げた。


「面倒なことを」


ごろんと横になって息吹を想う。

こんなことに巻き込みたくはない――だが話さなければならない時が来る。

それまでは黙っていよう。

息吹が直接聞いてくるまで。
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