主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
それから数日――朔や輝夜はほぼ毎日遊びに来てくれたが、肝心の主さまがやって来ない。

ここまで放っておかれたのははじめてで、息吹は頬を膨らませながら繕い物をしていた。


「おや、可愛いふくれっ面だねえ。どうしたんだい?」


「あ、父様…。主さまが来ないからちょっといらいらしちゃって」


「ふむ、何やら忙しそうにしていたが、百鬼夜行関連でごたついているだけだよ」


「そうなんですか?ふうん…女遊びじゃないならいいんだけど」


未だに主さまが過去女遊びをしていたことが棘のように胸に刺さっている息吹は、ため息をついて隣に座った晴明にすり寄った。


「一度帰っちゃおうかな?」


「献身的な妻ならば夫の邪魔はせぬ方が良いと思うが、いかがかな?」


やんわりと晴明に諫められた息吹は、百合が寝ている部屋の方を一度振り返ると、頬を緩めた。


「お母さんの容態が安定してるから一度帰ろうかと思ったんだけど…お母さんはもう長く生きられないからやっぱり傍に居ようと思います」


「百合殿の容態は今は安定しているがいつ悪くなってもおかしくないのだ。息吹、今は幽玄町関連のことは何も考えず百合殿に心を傾けなさい。朔たちは毎日来ているのだから、十六夜が来たときはそこたま叱ればいい。ふふふ」


何か隠されている――そのこと自体にはすでに気付いている。

朔と輝夜はいつも通りに装っているが挙動不審な様子は否めず、それを例え訊ねたとして答える子らではない。

危険なことからは遠ざけられている――そんなか弱い女ではないのに。


「父様、私時々変な夢を見るんです」


「ほう…どんな夢だい?」


「誰かが泣いてるの。女の人で…誰かを呼んでるんだけど、いつもそこで目が覚めちゃうの」


「…そうか、それはその声があまりにも悲しげに聞こえて目が覚めるのかもしれないね」


「正夢で泣ければいいけど」


晴明は息吹の頭を撫でてやりながら、内心深く息をついた。


巻き込まないようにするためにはどうすればいいのか――主さまの決断が待たれていた。
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