主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
「…息吹が訝しんでいるだと?」


「ああ、何やらこちらに一度戻って来ようかと言っていたので私がやんわり諭しておいたから戻っては来ないだろう。それよりもどうなっているのだ?」


主さまは隅に放り投げたままの書物を顎で指して舌打ちした。


「非常に胡散臭い内容だ」


「ほう、胡散臭いとは何事だ。私も目を通してみたいのだが」


「いや、やめておけ。男が見るものじゃない」


――内容が恋物語であるため、主さまは半ば半分ほどで読むのをやめていた。

だが最後の頁だけはきちんと目を通して結末がどうなったかは知っているが、その過程にはまるで興味がない。

主さまは自室で晴明とふたりきりになって今後どうするかを話し合っていたのだが、なにひとつ決まってはいなかった。


「ところで十六夜。大陸の話をしてもいいかな?」


「大陸とは“渡り”の居る方だな。どうした」


「いやなに、私は知らぬことがあるのは嫌な性分故、あちらの情報も追ってはいるのだ。それで集めた情報に地下に居るあれのことではないかという情報を耳にしたのだ」


主さまは膝がつきそうな距離で上体を傾けると、険しい表情のまま声明を睨んだ。


「お前の屋敷で情報を集めているのか?息吹に悟られたらどうする」


「あの子は私のやっていることを詮索したりはせぬよ。…で、花殿のことだ。あの“渡り”はどうやら特殊な力の持ち主らしい。で、その力を狙って追われた末に流れ着いたのがここ、というわけだ」


「…それはなんとなくあの書物に書かれてはいたが。その力とは?」


「花殿が喋らぬ理由だよ。心に直接話しかけてくる思念波でしか意思を伝えてこぬのは、そこに理由があるのだ」


晴明は大陸の情報にも精通しているが、主さまは興味がなかったため情報収集はしていない。

だから今は晴明が頼りだ。

あんな甘ったるい内容の書物よりはよほど有用な情報であると確信した。
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