主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
朔と輝夜はすでに字が読めたが話して聞かせる方が早く、主さまはふたりの前で口を開けては閉めてを繰り返していた。


…正直自身の感想を踏まえて話をしてしまうと内容を曲解してしまう可能性がある。

冷静に努めて客観的に聞かせて話さなくてはならなかったが――不器用な主さまはそれができず、話を待っているふたりに首を傾げられていた。


「ふむふむ、なるほど」


その間に晴明は速読で書物を読み、読破。

切れ長の目を細めて笑うと主さまの肩を押してふたりの前からどかせて自らが向き合った。


「では私から話をしてあげよう」


「お祖父様が…ですか?」


「そこの使い物にならぬ男よりもよほど私の方が話が上手だよ。どうだい?」


朔と輝夜は顔を見合わせ、そして主さまに目をやった。

主さまといえば…いらいらしている顔だったが晴明の言うことが正論だったため、くるりと背中を向けてぼそっと呟いた。


「晴明から話を聞け」


「はい」


任された晴明は腕を組んでふたりに向けて上体を傾けた。


「そなたたちは恋をしたことがあるかな?」


「ない…ですけど」


「それはそうだろうねえ。だが今から話すことは男と女が惚れ合って互いを想い合う物語だよ。わからないところも所々あるだろうが、まあ聞きなさい」


「はい」


「まず第一に。地下のあれは…花殿と言う。本来正式な真名があるはずだが書物には書かれていない。そしてこの書物を書いた下弦という男がそなたたちの祖先の者であり、当時の当主だ」


「え…ではあの女の人と下弦が恋に落ちたというんですか?」


「そうだよ。許せぬ恋に身をやつし、あまりに短い生涯を終えている」


「ま、待ってくださいお祖父様。俺たちはまさか…そのふたりの間に生まれた子の子孫なのですか?」


「いいや、それは違う。下弦にはふたりの妻が居た。そなたたちはその正妻の方の血縁の者だ」


輝夜は黙ってそれを聞いていた。

朔は質問をし続けた。

自分が――というより、押し黙る弟のために。


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