御曹司と婚前同居、はじめます
「いやあ、これも瀬織家に助けていただいたおかげですよ。本当に感謝しています」


お父さんは深々と頭を下げた。


「やめてくださいよ。堂園家は親族同然なんですから」


――何よそれ。


「ようは、政略結婚ってこと?」


一人娘を売ってまで、倒産寸前だった堂園化成を立て直したかったの?

触れ合う機会は極端に少なかったけれど、それでも私に対してはいつも優しい父親だったのに……。

胸がチクリと針で刺されたように痛んだ。


「何を言っているんだ」


お父さんは心底驚いた様子で目を丸くする。


「美和、もしかして何も聞かされていない……?」


瑛真は眉を下げ、困惑した声を出した。

傷付いたような顔をされる理由が全く分からない。

まだ手付かずだったコーヒーカップを持ち上げ、乾いた口の中に流し込んだ。

そんな私を静かに見つめていたお父さんは、一度深い息を吐いてから口を開く。


「てっきりじいさんから話がいっていると思っていた。いや、もしかしたら話したかもしれないけど、美和は小さかったから覚えていなかったのかもしれないな」
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